REPORT

首都圏を襲う、超高線量の「黒い物質」Part3

2012年06月05日 00:19:00
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「黒い物質」のサンプルを回収するNO!放射能「東京連合こども守る会」石川さん

Part2からの続き

◇責任逃れ、杓子定規の基準―鈍すぎる政府の対応

明らかに危険物である「黒い物質」だが、政府の対応は迅速とも適切とも言いがたい。筆者がまず電話したのは、内閣府原子力被災者生活支援チーム・放射線班。応対した職員は「そういうものが存在することは、報道等で知っている」と答えたものの、具体的な対策については「詳しい話は南相馬市役所の生活環境課に聞いてくれ」と丸投げ。仕方なく、言われた通りに同市生活環境課に電話したものの、同課の係長は明らかに当惑している様子。専門家集団でもない、ただの市役所の職員なのだから、無理もない。南相馬市では、財団法人日本分析センターに「黒い物質」の検体を提出し、検査を依頼したものの、それ以上の動きは「今のところはありません」(同生活環境課)とのこと。同市除染対策課にも問い合わせたが、やはり「(『黒い物質』に)特別に対応しているわけではない」とのことだった。

除染の管轄といえば環境省。同省の放射性物質汚染対策特措法措置法施行チームに問い合わせてみたが、杓子定規な方針が現実の状況に対応していないことを確認させられただけだった。「除染は、地上50cmから1mの空間線量が、年間20ミリシーベルト、毎時に直すと3.8マイクロシーベルトという基準で行なっています」(同チーム。福島県外では毎時0.23マイクロシーベルト。)。しかし、「黒い物質」が落ちていても、周囲地上50cmから1mの空間線量を激増させるわけではない。つまり、環境省の基準では、24万ベクレル/kgの「黒い物質」が発見された江戸川区での様なケースに対応できないのだ。

前出の山内知也教授は「空間線量にのみこだわる国の姿勢が問題」と指摘する。「文科省が各地の線量をモニタリングしていますが、空間線量はその地域の平均値にすぎません。しかも、上空から飛行機でガンマ線を計測した、言わば『上から目線』のデータ。放射能汚染の実態を正確に把握するためには、地上で綿密に計測していくことが必要です。地上1 m高さでは、除染の基準とされている空間線量よりも低いレベルの地域であったとしても、1kgあたり24万ベクレルという土壌物質が存在するという事実は、重要な事柄として周知される必要があるでしょう」


◇危険だが、対応しやすくなった面も

「黒い物質」は、非常に厄介な存在だが、「捉えようによっては悪いことばかりではない」と前出の石川あや子さんは語る。「それ自体は見えない放射能と違い、目で見つけるのは簡単です。水が流れて渇いたところなど、ある場所も予測がつきやすい」。大山弘一市議も「湿っていて、程よく日が当たったり、日陰になったりするところに多い」と言う。山内教授も「それっぽいものに、放射線検知器を近づけて反応があれば、まず『黒い物質』でしょう」と、特定しやすさを強調する。「黒い物質」と思しきものには、手を触れない、近づかないようにすることで、被曝リスクを軽減させることができるだろう。もっとも、風の強い日には飛散する危険性もあるため、やはり、行政が放射性物質の扱いに精通したプロに、除染を依頼することが望ましい。


◇小出裕章氏が一喝「ただちに『黒い物資』を除去、厳重管理せよ」

40年以上、原発や放射能の危険性を訴えてきた、小出裕章氏(京都大学原子炉実験所)は、国の対応の鈍さをこう叱り飛ばす。
「東京都内でキロあたり24万ベクレルという数字は非常に驚きです。職務上、放射性物質を扱う私でも、10万ベクレル以上のものは、そんなに毎回の様に接する線量のものではありません。扱うにしても、法令で厳しく管理された、放射線管理区域でのみ扱い、外部には絶対に漏らさないように義務付けられているのです。本来、環境中に存在してはいけないものであり、人々の生活する場所にある事自体がおかしなことであり、法律違反なのです。法令では、『放射線障害防止法』というものがありまして、それに関連する基準によるとセシウム134、137の濃度が1kgあたり1万ベクレル以上含むか、総量で1万ベクレル以上を含む物体を『放射性同位元素』として扱うことになっています。これらは速やかに除去され、ドラム缶等に封じられ、しかるべき箇所に厳重に保管されるよう、定められているのです。本来であれば、『黒い粉』もすぐさまそうした措置を取るべきでしょう。環境省の除染基準など関係なく、既存の法令に従って、しかるべき対応がされるべきなのです」(小出氏)。

小出氏は、今回の「黒い粉」への対応も含め、事故以前の放射線関連の法令や安全基準が、事故後、まるで無かったかのようにないがしろにされていることを懸念しているという。
「3.11を境に世界が変わってしまった、そんな気すらします。原発事故から1年が経って事故当時の緊張が薄れているかもしれませんが、事故は収束などしていません。国が自分で決めた法令を破るようなことを、国民も許してはいけないのです」(小出氏)。


◇取材まとめ

今回、「黒い物質」の取材を通して、改めて感じたのは、政府はまるで3.11原発事故による放射能汚染の被害実態も対策も全然できていないということだ。がむしゃらに原発再稼動をすすめることよりも、今、そこにある危機に対応すべきなのだろう。今後も、本件について、さらなる取材を進めていきたい。


* 本稿は週刊SPA!5/22号(2012年)に掲載した記事に、その後の取材を反映して加筆、改変したものです。
*SPA!記事中では、「黒い粉」、NO!放射能「東京連合こども守る会」石川あや子さんと早川由紀夫教授(群馬大学)は「路傍の土」、大山弘一市議は「黒い藍藻」とそれぞれ異なる表記・呼び方をしていますが、本稿では、「黒い物質」という表記で統一しています。

*本記事は出典を明示していただければ、基本的に転載・転送フリーです。ただ、取材には諸々の経費がかかっておりますし、充分な資金があれば、今後の取材にもつながるので、もしよろしければ、志葉の活動へご支援いただければ幸いです。

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